日本にいるときに読んだ本、「論文捏造」(村松 秀、中公新書クラレ)。たまたまこっちに持ってきていて、ちょっと手にとって読んでみて思い出しました。
当時は会社で普通に仕事をしていたのでそれほど考えなかったのですが、自分が大学で研究する身になってみてから読み返すといろいろ思うところがありました。
本の内容については詳しく述べませんが、実際に論文が捏造された事件を追ったNHKのドキュメンタリー番組の文書版、みたいなものです。
誰かが発表した論文の結果がホントかウソかを判断するのは難しい。まだ有機化学の実験的なところであれば比較的簡単に再現実験ができたりしますが、そうでなければ時間もお金もかかるし、大変だと思います。
うちの教授はそのあたりとても慎重で、一つのプロジェクトを論文にする前に、必ず誰かに再現実験をやってもらうことを求められます。そのプロジェクトと関係ない仕事をやっている人を選んで、原料と、論文に載せる実験手順をわたして、あとは一切説明しないでやってもらう。つまり、その論文が世に出たときに世界のどこかで誰かがやろうとしたときに、有機化学の基本的な心得がある人であればちゃんとできるかどうかを確認するわけです。
もちろんこれだけで万全、というわけではありませんが、本来の結果とあまりにかけ離れた結果が出てしまったら、クリアされていない問題がまだ残っていると判断することができます。
再現実験だけではなく、論文に載せる反応例を作るための実験についてもうちの研究室のルールがあります。それは、すべての反応は必ず2回やって、そのデータを平均して出す。また、その2回は不斉触媒を(R)と(S)両方を使ってやることで、HPLCでのピークの重なりによる誤った光学純度が論文として出ないようにしています。もちろんこれも万全ではなく、また、売っている触媒ならまだしも、自分で作る触媒であればそれをえっちらおっちら作らなければならず、かなりの重労働が追加されることになります。それでも、そうすることでできる限りきちんとした結果を報告しようと努力されているわけです。
少し前ですが、こんな論文が出たということで読んでみました。有機合成をやっている人なら興味をもって読めると思います。なかなか難しい問題です。
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